患者さんへ(乳がんについて)

乳がんについて

 乳がんは女性に発症するがんの中で最も多く、40歳ごろから増えはじめ、女性の約10人に1人が発症するといわれています。乳がんは検診や患者さん自らが触って早期に見つけることができるがんであり、早期に発見することで治る可能性が高くなると考えられています。治療は手術・薬物療法・放射線治療を組み合わせて、患者さんそれぞれに適した治療を選択します。最近は遺伝性乳がんが注目されていて、乳がん発症リスクが高い人に対する予防が行われています。

乳がんの検査とサブタイプ

 乳がんの検査で行われるのはマンモグラフィ検査、超音波検査、造影MRI検査です。マンモグラフィ検査は乳がん検診や、乳腺外科を受診した時に行われますが、乳房を圧迫してX線で撮影し腫瘤影や石灰化を見つけます。乳腺外科の外来ではさらに超音波検査を行い、時には造影MRI検査を行って診断のために組織検査(針生検)を行うかどうかを判断します。良性の腫瘍(線維腺腫や乳管内乳頭腫など)が疑われる場合には、組織検査を行わずに経過観察をお勧めすることもあります。
 組織検査では、乳がんかどうかを診断するだけでなく、乳がんの場合にはさらに詳細に乳がんの特徴を調べます。主にはER(エストロゲン受容体)、PgR(プロゲステロン受容体)、HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2)を調べます。これらを調べることで、乳がんをサブタイプサブタイプとは、乳がん細胞がもつ遺伝子の特徴によって、乳がんを分類したもののことです。に分類し、タイプに応じた治療を選択することができます(図1)。

(図1)サブタイプと薬物療法の選択肢

    ER+ PgR+またはPgR- ER-PgR-
HER2+ サブタイプ名称 ルミナール・ハーツー タイプ
(Luminal-HER2)
ハーツー タイプ
(HER2)
薬物療法の選択肢 内分泌療法・化学療法・抗HER2療法 化学療法・抗HER2療法
HER2- サブタイプ名称 ルミナール タイプ
(Luminal)
トリプルネガテイブ タイプ
(triple negative)
薬物療法の選択肢 内分泌療法・化学療法 化学療法・免疫療法(一部の方が対象)

上段:サブタイプの名称
下段:サブタイプごとの薬物療法の選択肢

乳がんの治療

 乳がんの治療では手術・放射線治療による局所療法と、転移・再発を予防する薬物療法を組み合わせて行います。乳がんの局所療法は、乳房を部分的に切除し放射線治療を組み合わせる方法(乳房温存療法)と、乳房をすべて切除する(乳房全切除術)があります。切除する範囲が小さい場合は、温存療法を選択することが可能ですが、切除する範囲が大きい場合は乳房をすべて切除することになり、その場合には同時に乳房再建術を受けることができます。薬物療法はサブタイプによって治療の選択肢が異なります(図1)。効果や副作用の説明を行い、それぞれの患者さんごとに適した治療を相談しながら選択します。乳がんを小さくしてから局所療法を行うためや、薬物療法の効果を先に確認してから術後の薬物療法を選択するために、局所療法の前に薬物療法を行うこともあり、治療の順番も相談しながら決めていきます(図2)。
 転移・再発した乳がんでは、サブタイプに応じた薬物療法を選択していきますが、がんによる症状を緩和するために局所療法も時には組み合わせながら、治療の目的に合わせて治療を選択していきます。

(図2) 術前治療で縮小した乳がん

(治療前)造影MRI検査
(治療後)造影MRI検査

遺伝性乳癌卵巣癌症候群について

 乳がんと診断された方の7~10%は遺伝性乳がん(遺伝的に乳がんになりやすいことが原因で乳がんになった)と考えられています。乳がんになりやすい遺伝子の変化はいくつか知られていますが、もっともよく知られているのは「BRCA1」と「BRCA2」という2つの遺伝子です。これらの遺伝子に癌になりやすい変化がある方を遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome:HBOC)といいますが、生涯のうちに約70%の方が乳がんになるといわれており、一度乳がんになったあとにもまた別の乳がんになる場合があります。また20~40%の方が卵巣がんになるといわれています。現在、乳がんと診断された患者さんは、遺伝性乳がんかどうかを血液検査で調べることができるようになりました。遺伝性乳がんとわかった時には、がんのできた乳房だけでなくがんのない反対側の乳房も予防的に切除することも検討されます。今できた乳がんだけでなく次の乳がんや卵巣がんをどのように予防していくかを考えることが、遺伝性乳がんでは重要になっています。

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